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【私を支える魔法の言葉】
リーダーにとって、決断しないことが一番の罪悪

シンガーソングライターの大垣知哉が「今、会いたい輝く女性」を取材し、人生の支えになった大切な言葉とストーリーを綴る「魔法の言葉」を連載。

梅乃宿酒造株式会社 代表取締役 吉田 佳代さん

(取材日:平成31年1月)

 昭和54(1979)年、奈良県葛城市生まれ。帝塚山大経営情報学部卒業、総合商社を経て平成16(2004)年に梅乃宿酒造に入社。入社10年目となる同25(2013)年7月に5代目社長に就任、父から梅乃宿酒造を引き継いだ。平均年齢35歳という若い従業員たちのチャレンジスピリットを大切にしながら、女性向けの新商品開発や海外向けの販路拡大などの積極的な取り組みが話題を呼ぶ。現在は、二人の子どもの母親としても多忙な毎日を送る。


リーダーにとって、決断しないことが一番の罪悪=決断の先のばしは何も生み出さない。スピード感を持って決断することこそ、チームを引っ張るリーダーにとって大切なことだ。


 外に出た時、恥ずかしくないようにしつけてくれたのは母でした。あいさつの仕方や立ち振るまいなど、あらゆる作法を教えてくれるありがたい存在でした。一方、父は子どもにとても甘く、まったく怒らないものですから、子ども心に「ママは厳しい」「パパはやさしい」という認識でした。今思えば、バランスが良く、それぞれの愛情で育てていただいたと感謝しています。

 家業が歴史ある酒蔵で、家の真ん前が仕事場だったので、酒蔵が私にとっての「遊び場」であり、「学びの場」であり、いけないことをした時の「お仕置きの場」でもありました。2つ下の妹と喧嘩をする度、2人して空っぽの貯蔵タンクに入れられたものです。
 覚えているのは、妹と知恵を絞り、協力してタンクから脱出したこと。まず私が妹の肩に足をかけて、タンクのヘリを両手でつかみ外へと出て、見つけてきたホースを垂らして、タンク内の妹を救出。「やった!」と満足げな私たちでしたが、喧嘩したことを忘れているのだから、親の掌上に運らされていた訳です。

《写真左》吉田佳代さん(7歳)と妹さん、弟さん《写真右》入社当時の吉田佳代さん。父であり現在、会長を務める吉田暁さんと


 このように酒蔵が生活の一部にあったので、将来の働き先として梅乃宿を選ぶのは自然な流れでした。ただ、私には7歳離れた弟がいて、「長男である弟が家業を継ぐ」という認識でした。それでも家業に貢献したいと経営情報学部のある大学に進学し、大学卒業後に商社で勤めたのち、25歳の時に梅乃宿で一社員として働くことになりました。
 念願の梅乃宿での仕事でしたが、最初はしんどい思いばかりでした。「梅乃宿の娘なら、酒蔵の仕事ができて当たり前」と自分自身で思い込み、できない自分に自己嫌悪し、ついにうつになってしまいました。一人でいる時には「死」まで考えるようになっていたのです。
 それでもがむしゃらに働き続け、徐々に気持ちが晴れ始めた入社3年目の時。「望めば父も社員のみんなも私が梅乃宿を継ぐことを認めてくれるのかも」と思えるまでになりましたが、弟の存在に加え、未だ自信が持てずにいた私はそのことを決して口にできませんでした。
 そんなある日、父に誘われ参加したセミナーで講師の先生が言った言葉が私を変えました。「リーダーにとって、決断しないことが一番の罪悪だ」。当時、私はリーダーではなかったのですが、「家業を継ぐとも継がないとも決断しないことで、父や周りのみんなにも迷惑をかけているのではないか。それならいち早く決断しなければいけない」という思いに至り、父に「梅乃宿を継ぎたい」と伝えたのです。
 父の返事は、「お前に能力がなかったら継がさんかもしれんけど、悪いと思ってくれるなよ」と。つまり、「お前の能力次第だ」とのことでした。この父の言葉を聞き、私は涙があふれました。それは悔しいとか悲しいではなく、父の梅乃宿を誰よりも大切に思っているという「愛社精神」に感動したのです。 
 この日を境に、私は父や周りに認めてもらえるようによりがんばるようになり、平成25(2013)年7月に代表として就任することになりました。
 転機となったセミナー講師からの学びは今でも私の根幹にあり、経営者として大切にしている言葉です。
 現在、私には息子がいますが、父がそうであったように、梅乃宿の後継者として、息子はただの候補の一人でしかないと思っています。将来的には梅乃宿を導いてくれる人材を見出し、その人に継承することも、いつか私が果たすべき大切な役目だと思っています。そのために今すべき決断とは何か―。父にも負けない愛社精神を持ち、私の一番の誇りである梅乃宿で働くみんなと力を合わせて、新しい酒文化を創造する蔵としてより成長を目指し、切磋琢磨することです。

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