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刀工「月山派」の後継者
先祖に挑戦、後世へ残る刀作り

(取材日:平成28年9月)

 中学、高校の青春時代を奈良で過ごしたシンガーソングライターで俳優の大垣知哉さん(写真右)が、奈良にゆかりのある伝統を継ぐ人や一流のエンターテイナーたちと、奈良への思いを中心に対談します。

刀匠 月山 貞伸さん

 渦状の木目模様「綾杉肌」と呼ばれる日本刀の地肌が特徴の刀工「月山派」。その伝統は桜井市茅原の「月山日本刀鍛錬道場」の後継者、月山貞伸さん(38)に受け継がれている。祖父は人間国宝の貞一さん、師匠の父は奈良県無形文化財の貞利さん。脈々と続く月山の名を貞伸さんは「ご先祖に挑戦する気持ちで鍛え、一振りでも多く作品を残していきたい」と語る。日本刀の歴史や精神性、新たな試みについて大垣知哉さんと対談した。


 大垣 最近ではアニメやゲームとのコラボレーションが盛んで「刀女子」と呼ばれる若い女性たちから日本刀への注目が集まっていますね。


 貞伸 今までずっと続いてきた伝統文化、伝統工芸ですけれども、理解していただくには時間がかかると思っています。工夫して伝えていくことが僕ら若手の役目だと考えています。
 ここ数年、刀を疑似化したアニメとのコラボなどを通じて、今まで理解していただけなかった層の方々が日本刀を見に来てくださる機会が増えつつあるように思います。


 大垣 日本刀を鑑賞に来られる女性はどのような方ですか。


 貞伸 そうですね、最初はアニメ、ゲームのキャラクターを通じて見に来てくださる印象ですが、皆さん真面目で入口から踏み込んで勉強されている方が多いです。こちらがハッとするような専門用語をお話しになる方や、刀の鑑賞の仕方、見所をご存知の方などもおられます。
 最近は刀の展示会や勉強会などのイベントを開催させていただくと、半分くらいは女性の方がいらっしゃいますね。


 大垣 刀というと50歳代、60歳代の「男のロマン」というイメージがありますが、だいぶ変化しているんですね。


 貞伸 若い方々に日本刀に対する理解者が増えているのはありがたいことだと思っています。こういった啓蒙活動を通じて、先の10年、20年を見据えていければと思います。女性の理解がないと、なかなか日本刀を手に入れるのも難しいですしね。


 大垣 刀工の家に生まれた貞伸さんは、幼いころから後継者として生きていくことを考えておられたんですか。月山という名の重圧を感じられたりしたことはありますか。


 貞伸 祖父や父もやっていて、自分が跡を継ぐという認識はあまりなかったのですが、祖父や父のような刀鍛冶になりたいなとは思っていました。野球選手になりたいとか、そういう夢の一つとしてありましたね。中高と進み、漠然としたものが「刀鍛冶になりたい」とそう願うようになりました。苦労を知る両親には違う道に進むように言われましたが、逆に火が着きました。
 交換条件として大学は行くということで、京都産業大学に入学しました。下宿しながら、帰ってきては刀の勉強をさせてもらいました。本格的に修行をさせてもらったのは大学を卒業してからになります。


 大垣 大変な修行だと思いますが、初めて自分の刀を鍛えられたときの感想はいかがでしたか。


 貞伸 修行は朝から師匠に言われたことを黙々とこなすんです。自分の作品を作れるようになるのは5年かかります。そうしてようやくスタートに立てて、初めて自分で作った刀を手にしたときは、本当に震えて涙が出ました―。
 僕らの仕事は、刀鍛冶がいて、研ぐ職人さん、鞘を作る職人さん、そういった多くの方々の手作業を通じて完成します。この初めての刀を手にしてから考え方がいろいろと変わりましたね。代々のご先祖の作品や古名刀と比較されますし、まだまだこれからの人間ですが、ご先祖や古名工に挑戦するような気持ちになり、刀作りに熱が入りました。


 大垣 今後の挑戦したいこと、取り組みたいことはありますか。


 貞伸 ご先祖が鍛えた刀を見ると、学ばされること、教えられることがあるように思います。やっぱり代々続いてきたこの月山を受け継いでいく者として、良い刀を一振りでも多く世に残していきたいと思っています。また若手として日本刀を多くの方にご理解いただける活動に励んでいきたいと考えています。 


 

がっさん・さだのぶ
 1979年奈良県生まれ。奈良県を拠点に800年以上の伝統をもつ月山鍛冶の末裔。1998年京都産業大学在学中から師貞利に就く。2007年に新作名刀展で新人賞を受賞。お守り刀展、新作日本刀刀職技術展などで数々の特賞や入賞を受賞している。
 
 
【撮影場所】月山日本刀鍛錬道場<記念館>
住所:奈良県桜井市茅原228-8
電話:0744-42-3230
開館日:3月~11月まで毎週土曜日(8月休館)

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