各地で個展、僧侶などの顔も持つ彫刻家
「仏像は日本彫刻の模範」
(取材日:平成28年12月)
中学、高校の青春時代を奈良で過ごしたシンガーソングライターで俳優の大垣知哉さん(写真右)が、奈良にゆかりのある伝統を継ぐ人や一流のエンターテイナーたちと、奈良への思いを中心に対談します。
彫刻家 吉水 快聞さん
カエルにヤモリ、キツネやウサギ―身近な生き物たちを木の中から彫り出す彫刻家の吉水快聞さんの作品は、凛とした表情でありながら、愛嬌が見え隠れする。奈良に生まれ、大学時代は関東で過ごすも現在は再び奈良を活動拠点とする。アーティストとして各地で個展を開くなど幅広く活躍するほか、文化財修復家、仏師、僧侶としての顔も持つ吉水さん。オリジナル作品や仏像にかける思い、生まれ育った奈良について大垣知哉さんと語り合った。
大垣 彫刻家を志した、そのきっかけを教えてください。
吉水 子どもの頃から、ものづくりが好きというのは、もちろんありました。高校を選ぶ上で父親のアドバイスもあり、美術科に進んだことがきっかけです。そこから東京藝術大学に進学したことで、彫刻家への道筋ができたと思います。
大垣 最初に作った作品は何だったのでしょう。作品の多くが水辺の生物ですが、何か理由はありますか。
吉水 高校で初めて扱った材料は石でした。石で亀を彫ったりしましたね。水辺の生物が多い理由は、奈良には海がないので憧れていたのでしょう。子どもの頃は川に行って魚を採るか田んぼで遊んでいたので、そうした体験も今の作品につながっているのかもしれません。
大垣 出身はどちらでしょうか。お寺の生まれだとお聞きしました。
吉水 奈良の橿原市です。実家がお寺で、数年前に父親が死んだこともあり現在は跡を継いで住職を務めています。
大垣 仏像の制作や修復もされているそうですね。
吉水 はい。昔から仏像が身近にある環境でしたが、彫刻を志した当初は仏像を作ろうとは思っていませんでした。むしろ敷かれたレールに乗っているようで、絶対やるもんかという気持ちが強かった。けれど彫刻の勉強をするうちに、日本彫刻の模範となるものは仏像だと気づきました。大学の授業で奈良や京都の古寺を訪れ仏像に触れる機会もあり、大学院は仏像修復をする文化財保存学保存修復科に進みました。そこからは素直に仏像と関わるようになりました。
大垣 この作家はすごいなあと、尊敬する作り手がいれば教えてください。
吉水 もちろん大学の先生方から、多くのことを教えていただいたことは言うまでもありません。その上で、敢えて挙げるのであれば「快慶」です。私は大学院で快慶作品を研究しました。今でも快慶が残した作品から学ぶことが少なからずあります。技術はもちろん精神面も快慶の遺したものから、たくさんのことを得ています。
大垣 快慶のすごさは、どういったところにありますか。個人的には、美しさというか迫力が違う気がします。
吉水 快慶はなんといっても、バツグンにうまくてセンスが良い。800年前のものなのに、廃れない普遍的な美しさがあります。保存状態が異常なほど良いのは、大切にされてきたからでしょう。運慶と比べると、慶派の政党後継者でもないのに、歴史に名を刻み、作品もたくさん残している点も魅力です。
ただ、快慶が作ったものを追うだけでなく、快慶はどんなものが作りたかったのか、何を意識していたのか。快慶らしさとは何かを考えながら、私も制作していきたいです。
大垣 最後に、吉水さんの今後の目標をお聞かせください。
吉水 日本で最も古くからの文化財があるのは奈良です。しかしながら、そこに関わる若者があまり育っていないのは寂しい。積極的に若者の人材育成に関わることのできる時間的余裕は正直なところありませんが、機会があればお手伝い出来たらと思います。海外進出などもしてみたいと思いますが、まずは日本で大切にしてくれる人たちに作品を見てもらえるとうれしいです。
よしみず・かいもん 2011年、東京芸術大学大学院にて博士号(文化財)取得。同年、奈良に工房「巧匠堂」を設立する。全国各地にて展示活動を行うほか、大正大学で客員教授、龍谷大学で非常勤講師を務める。 URL:http://www.kaimon.biz/