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がん闘病 生きている実感求めて
「本当に撮りたいものは奈良にあった」

(取材日:平成28年10月)

 中学、高校の青春時代を奈良で過ごしたシンガーソングライターで俳優の大垣知哉さん(写真右)が、奈良にゆかりのある伝統を継ぐ人や一流のエンターテイナーたちと、奈良への思いを中心に対談します。

映像作家 保山 耕一さん

 テレビ番組「世界遺産」や「情熱大陸」を手掛けてきた生駒市のフリーランスカメラマン・保山耕一さんは、3年前に医師に宣告を受けた末期がんと闘いながら、四季折々の奈良の風景を取り続けている。映像表現の第一線を駆け抜けてきた保山さんを襲った病魔―。手術を受け「生きている実感」を求めて、再びカメラに触れ、「励まされた」という奈良の風景を撮り始めた。その映像に惚れ込んだ大垣知哉さんと、奈良の魅力を語った。


大垣 動画サイトで公開されている「奈良、時の雫」の映像は、美しさにため息が出ます。保山さんがカメラマンを志した、そのきっかけを教えてください。


保山 高校3年生のとき、自分は就職することを決めていました。しかし「楽しめる仕事でなければ俺、頑張られへんな」と思っていた時に、学祭で映画を撮って披露することになったんです。僕が中心になって脚本、監督、カメラを全部やりました。
 それを上映した時にみんながボロボロと涙を流して見てくれたんです。「うわあ、俺が作ったものにめっちゃくちゃ感動してくれてる」と感動し、「これを絶対に仕事にしなければ」と思いました。「これができるなら、どんなにつらくてもできるわ」とも。


大垣 テレビのカメラマンは今やフリーの方がめずらしくありませんが、保山さんが仕事を始められた当時は少なかったとお聞きしました。


保山 昔は基本、局やプロダクションの社員がカメラマンをやっていました。そんな中で「フリーでやっていけたら」と思っていました。何でもできるようになりたかったんですよ。最初はドキュメンタリーをやりたくて、仕事とは別に撮ってましたね。
 そんなある時、車いすの方が、駅前でビラを配っているドキュメンタリーを、先輩カメラマンの撮影助手として付いていました。一生懸命ビラを配っている様子を撮影していると、強い風が吹いて、そのビラが舞い上がってしまいました。
 僕はその時「やったー、めっちゃええシーンや、カメラ回ってるし」と興奮して先輩カメラマンに目をやると、先輩は走ってそのビラを拾っていたんです。「何てことするんだ」と、先輩を軽蔑しました。「僕らがここでできる最大の助けは撮ることやろ」って。
 でもそのことを何年もずっと考え続けて、「やっぱり自分が間違っていたな」と気付かされました。「カメラマンである前に人間でなければいけない」、それに、助けに行ったことで車いすの方とカメラマンとの信頼みたいなものができて、その後の取材がすごくスムーズになりました。
 これを経て、自分はドキュメンタリー作家にはふさわしくないと思い、職人としてのカメラマンを目指しました。圧倒的な技術を手にして、ライバルに勝とうと―。


大垣 現在、取り組まれている「奈良、時の雫」を撮られるようになったのはどういった経緯ですか。


保山 3年前、倒れてしまったんです。医師に「余命2カ月、直腸の末期がん」と診断されました。それまで、どこか仕事に対して「俺の技術だから当然だろ」とか、嫌なところがあったように思います。がんになって、培ってきたものが手のひらからこぼれ落ちるような、ほんまに空っぽ、空っぽですよ…。そして東京の病院で放射線治療や手術を受け、何とか「5年後に生きている可能性は5%から15%」と言われました。


大垣 手術をされてから撮影は何か変わりましたか。


保山 生きていることが当たり前の毎日から、カメラを触りもしない日が続く。一言で言うと生きている実感がまったくありませんでした。なぜ病気と闘っているのか、生きている意味はどこにあるのかがわからない。
 だから「しんどいけど撮りに行こう」。そう思うようになり、幼いころ親しんだ、母に手を引かれて散歩した飛火野の風景をスマホで撮りに行きました。それまで番組「世界遺産」で絶景と言われるような世界中の場所を撮影してきましたが、それを撮りたいとは微塵も思わず、撮りたいものは「奈良」でした。
 そんな折、歌舞伎役者の坂東玉三郎さんが「最近は、自分の個性を無理やり出そうとしてくる人がいる。そんなことではまったく人は感動しない。個性は何十年か、ずっとその人が余分なものをそぎ落として、どうしてもそぎ落とせず、残ったもの。この個性に人は感動する」との言葉をいただきました。
 病気ですべてを失った僕ですけど、残っているものがこのカメラ。その個性を大切にして「奈良」を撮り続けたいと思っています。


大垣 表現者として大変勉強になるお話を聞かせていただきました。「奈良、時の雫」のまた新たな作品を見せていただくのを楽しみにしています。
 

 



 

ほざん・こういち
 US国際映像祭でドキュメンタリー部門の最優秀賞である「ベスト・オブ・フェスティバル」を受賞。フリーランスのテレビカメラマンとして「THE世界遺産」などの人気番組を担当し多方面で活躍。2013年に直腸がんと診断され、リハビリ代わりにと地元・奈良の撮影を開始。「奈良、時の雫」と題して公開されている映像集は200本を超え、話題を呼んでいる。
奈良、時の雫動画サイト:
https://www.youtube.com/playlist?list=PLS5Pw7C3Z4tCwQ10as2VF9Q-6Du_hWEpF
 
 
【撮影場所】コスモス寺  般若寺
住所:奈良県奈良市般若寺町221
電話:0742-22-6287
開門時間:9:00~17:00
拝観料金:大人500円、中学生200円、小学生100円
URL:http://www.hannyaji.com/

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