応え続けるルーツと美学「本物の魚を」
割烹 桝谷 店主 桝谷 安男
(取材日:令和2年10月)
三輪の里にある日本料理・和食「割烹 桝谷」(桜井市金屋)は、鮮魚店からはじまり「良い魚の料理を食べさせてほしい」という客のニーズに応えるために店を出したことがルーツ。幼い頃から鮮魚に触れてきた店主の桝谷安男さん(48)は、客の要望に応えるため、付き合いのある市場や日本各地の直送ルートを通じ、80㌢を超える希少な「ニシキエビ」の仕入れをすることも。魚のうまさを伝えるため目利きにこだわる。
同店はJR三輪駅のすぐ近くで安男さんの祖父が営んでいた鮮魚店から始まる。鮮魚を求める客の「この魚を料理してうまいもんを食べさせてほしい」の声に応える形で、22年ほど前に自宅の金屋で父と母が日本料理店を始めた。予約制でリクエストのあったものを作る。
当時は地元スーパーにも鮮魚店を出店し、安男さんは高校生の頃からそこで家業を手伝い、魚をさばく日々を過ごしながら、イワシからマグロまで、魚の種類で異なる鮮度のイロハを身体にたたきこんだ―。高校卒業後は一度企業に勤めたが、27歳で家業を継ぎ、京都で修行、ふぐ調理師の免許も取得した。
「魚ほどおいしく、おもしろい食材はないと思っています」と言う安男さん。仕入れは自分の目で見ることにこだわり、大和郡山市にある市場へは毎朝足を運ぶ。祖父から三代にわたり顧客と「信頼と信用」の元でリクエストを受けるスタイルである以上、目利きはとりわけ重要になる。
「三輪さん」や石上神宮の結婚式の披露宴、金融機関、大手企業の接待の場としても使われる同店。ビジネスの場の会話に華を添える料理の創作に励む。とある一日、この日は大手企業の社長のオーダーでイセエビ科の最大種「ニシキエビ」。素潜りで獲れたものを仕入れた。
中国や台湾では、ニシキエビは「神エビ」とされ、大きいものは60万元(約1130万円)の高値で取引された事例もある。これを付き合いのある業者を通じて沖縄から直送。体長80㌢、重さ5㌔にもなる大型で、エビは生きたままの状態で奈良まで来た。
まな板でバチン、バチンと尾を振るエビ。大量の卵を抱えている。卵はプチプチした食感を残す程度の煮つけにし、味噌ベースと出汁ベース2種類の「しゃぶしゃぶ」や天ぷら、雑炊などにし、腕を振るった。
魚に惚れ込む安男さんは「新型コロナウイルスの感染拡大を受け、『ホンモノ』をお求めになるお客さまが増えたと感じます」と語り、ルーツにある「客のニーズに応える」べく、日々、目利きと技術の研さんに励む。