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奈良の薬の歴史を融合 大和トウキと大和橘のジン販売

大和蒸留所長 板床 直輝さん

(取材日:令和2年8月)

 享保4(1719)年に創業した御所市の油長酒造は、敷地内の古民家を改装し平成29(2017)年にジンの製造を行う「大和蒸留所」を立ち上げ、大和トウキと大和橘の「KIKKA GIN」を販売している。所長の板床直輝さん(33)は、ジンに薬用酒として誕生した背景があることから「薬の町としての歴史がある奈良ならではの植物を使いたかった」と語る。ジンに込める思いと今後の展開について板床さんに話を聞いた。


 板床直輝さんは大学はニュージーランドへ留学してスポーツマネジメントについて学び、卒業後には大阪のスキューバダイビングの会社へ就職するなど、酒造りとは関係のない道へ進んでいた。油長酒造へ入社するきっかけになったのは、自分がお酒を飲むことが好きで、そういった関係の仕事に就きたいと考えていたときに社員の募集を目にしたことから。板床さんは大学時代を海外で過ごしていたこともあり、ウォッカやテキーラ、白ワインなどを愛飲し、平成23(2011)年に油長酒造へ入社するまで日本酒はほとんど飲んだことがなかったという。
 油長酒造で働き始めて5年ほど経った時に板床さんはスコッチウイスキーを好んで飲むようになり、蒸留酒に興味を持つようになった。ジンを作るといった話が持ち上がったのはそんな時のことだった。
 「日本酒とは違う世界を感じてほしいと山本社長が、社員を一人ずつ桜井市にある『ザ・セイリングバー』に連れて行ってくれたんです。そこで僕が最近ウイスキーにはまっていることを伝えると、マスターバーテンダーの渡辺匠(たくみ)さんに色々なジンを勧めてもらいました」と板床さんは当時を振り返る。
 続けて「そうして飲み続けてるうちに、油長酒造には20年ほど前に先代が取得していたスピリッツの製造免許があるという話になり、渡辺さんが『じゃあ、奈良県でジンを作るのは油長酒造さんしかないですよね』と仰り、『じゃあ、やってみよう』という社長の言葉から、仕事終わりや休日に蒸留の知識がないので独学でしたが試作品を作っては渡辺さんに味を見てもらうということを繰り返していました」と語る。
 そうしてジンの製造販売を油長酒造の一つの事業として立ち上げていけることになったのは平成29(2017)年末。翌年9月には敷地内の古民家を「大和蒸留所」として改装し、本格的な蒸留機械も導入された。
 大和蒸留所が製造する「KIKKA GIN」にはジンには欠かせないジュニパーベリーの他に、大和トウキの葉っぱの部分、大和橘が使用されている。ジンが薬用酒として生まれたという背景があることから板床さんは、薬の町としての歴史がある奈良に昔からあり、薬と関連のある植物を使ったものをと考えた。
 「大和トウキは根っこが漢方薬に使用されているもので、葉っぱには薬用成分は含まれていないですが香りが個性的で豊かです。また大和橘は約1500年前に不老不死の薬として、大和に持ち込まれたという歴史があります。ジンはスパイシーなベリーの味を感じますが、大和橘がメインになるように柑橘感を十二分に出しています。さらに柑橘だけでは単調になる味を大和トウキの重たく、セロリのような青臭い香りと調和をとり仕上げています」
 「KIKKA GIN」のアルコール度数は59%で、ガラス瓶(700㍉㍑)に入れて販売。その他にも年に2、3回の頻度で、配合などを変え他に奈良県で採れるものを加えるなどした限定ジンをステンレスのボトル(500㍉㍑)に入れ販売していくという。
 板床さんは「ジンはトニックウォーターで割ってもらうだけでもおいしいものですが、どうして飲めばいいのか分からない人も多いと思います。飲み方のレシピも公開していますので家で飲むということで楽しんでもらって、さらにはそこからバーへ出向くきっかけにもなってほしい。同じレシピでもバーテンダーごとに違う味になり、色々な楽しみ方があるということを知ってもらうことができれば」と話し、「KIKKA GIN」を、より海外で勝負できるものにしていく一方で、「国内でジンを知ってもらう最初の1本になることを目指したい」とジンに情熱を注ぐ。


いたとこ・なおき
 いたとこ・なおき 昭和62(1987)年11月30生まれ。ニュージーランドに留学しインターナショナルパシフィックカレッジの国際総合学部スポーツマネジメント学科を卒業。その後、大阪でスキューバーダイビングの会社に就職。退職後に、油長酒造の募集を見て平成23(2011)年に入社。「ザ・セイリング・バー」での話をきっかけに独学で蒸留のことや海外の記事を調べながら、自分で実際にジンを作り続けた。現在は、大和蒸留所の所長を務める。KIKKA GINの購入店などの問い合わせは油長酒造☎0745(62)2047へ。
 URL:https://www.facebook.com/yamatodistillery/

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