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良質吉野の割り箸くず 人形に命吹き込む肌色

森のねんど作家 みちやすさん

(取材日:令和元年7月)

 25年以上にわたり人形作りに取り組んでいる森のねんど作家のみちやすさん(50)は、約4年前に吉野の割り箸の木くずを利用した粘土「森のねんどの物語」を開発し、それを作品に使用している。自然の恵みを無駄にしない吉野の割り箸に共感したみちやすさんは「作品を通して素材の持つ物語も感じてもらい、さらには吉野杉というブランドが高まり、新たな産業サイクルが生まれるきっかけになれば」という希望を作品に込めて制作に励む。


 表情までしっかりと作り込まれ、今にも動き出しそうな人形を生み出すみちやすさんが芸術に興味を持ったきっかけは、小学3年生の時に描いた桜の絵を先生に褒めてもらったこと。「産休になるからその絵をほしい」と言ってもらい、自分に自信を持つことができた。
 本格的に芸術を学びたいと美術系の大学に進路を考えていたみちやすさんだったが、それは叶わず、模型を作る会社でアルバイトするなどして造形について学んだ。
 人形作家として活動を始めたのは平成5(1993)年、アーティスト募集のチラシを見て商店街活性プロジェクトに参加した後のことだった。みちやすさんは「パソコンが普及し始め、造形にしても絵にしてもCGが使われるようになった時代。人形も動くものを作った方がいいのではないか」と考え、電子制御の仕事に携わり産業模型のプログラム技術を習得。このプログラムを組み込んだ人形も制作している。
 電子制御と人形の作成依頼の仕事を両立する日々を過ごす中、吉野の知人から「吉野の割り箸の作業所では木くずを大量に燃やしている」という話を聞いた。当時、市販の「木粉粘土」で人形を作成していたみちやすさんは、この話を聞いたことをきっかけに、燃やされ処分される吉野の割り箸の木くずで木粉粘土を作れないかと考えるようになった。
 そう思い調べてみると間伐材を丸々木くずにしているくずよりも吉野杉から作られる吉野の割り箸は、建築材木を切り出した残りの端材を利用して作られているため不純物が少ないことが分かった。さらにはその色は白く人形の素肌の色にも近いものであると感じたという。
 さらには端材を利用することで「自然の恵みを無駄にしない」という想いから生まれたものであることを知り、みちやすさんは「素材の持つストーリーも含め、自分の作品に使いたい」と木粉粘土の開発に乗り出した。
 粘土制作の専門家に協力してもらい開発を進める過程で「配合が難しい」「粒度を細かくするのが難しい」「原料加工に費用がかかる」と課題もあったが、開発着手から約3年経った平成27(2015)年に念願の吉野割り箸の木くずを利用した粘土「森のねんどの物語」が誕生した。
 この粘土を使うようになったことでみちやすさんは「自分の中で作品の物語がより鮮明に見えるようになった。作品を通して素材の持つ物語、さらにはそれが朽ちていくまでの流れに思いを馳せてほしい」と話し、奈良の産業と歴史に思いを寄せ、制作する人形に息吹と物語を込める。

みちやす
 香芝市在住、本名は岡本道康。平成5(1993)年、商店街活性化プロジェクトに参加後、人形作家としてデビュー。同27(2015)年に吉野の割り箸の木くずを利用した粘土「森のねんどの物語」を考案。同31(2019)年4月に工房を京都府木津川市から奈良県大和郡山市に移す。10月22日には大和郡山市洞泉寺町の町家物語館で「懐かしい未来つくり(予定)」をテーマに個展展示ワークショップイベントを開催する。阪神百貨店でも個展などを企画。11月20日から26日、「阪神美術画廊ー沿線物語ー」の開催を予定している。

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