1200頭の鹿を診る主治医 奈良は世界最大の 〝研究機関〟
一般財団法人奈良の鹿愛護会 獣医師 丸子 理恵さん
(取材日:平成30年6月)
神仏と鹿、そして人が共生するまち奈良―。そのシンボル、奈良公園に生息する鹿の健康は、たった一人の獣医師が診ている。今年4月から一般財団法人奈良の鹿愛護会の獣医師として活躍している丸子理恵さんは、「鹿の生態データは少ないが、ここでは動物園とは比べ物にならない数の野生の鹿を診ることができる。その生態がわかってくる場所としてデータを蓄積したい」と語る。また年間約140件にも上る鹿の交通事故の防止を呼び掛けている。
丸子さんはこれまで、イヌやネコといった小動物臨床を中心に、家畜のヤギやヒツジ、ウサギなどを診てきた。野生動物の治療に興味があったと言う丸子さんは今回、奈良公園の鹿の獣医に応募した。 「野生動物は、人間の都合で住処や食べるものが減ったり、狩猟で駆られたりと数が減少している。ケガしていても放置されている野生動物を自分で治療することができればと思っていた」と思いを語る。
鹿の治療について「胃が4つあることや病気もヤギやヒツジと、似ている」と丸子さんは話す。だが、ペットと違い野生動物の治療の難しさは「基本的に触れないこと」にあるという。麻酔をかけてやらないと注射どころか診察もできない。
奈良の鹿愛護会のもとに運ばれてくる鹿で、もっとも多いのは交通事故によるケガ。その件数は年間約140件あり、2、3日に1回は運び込まれている計算になる。取材日も事故に遭ってしまった子鹿の手当てや、回復のための治療に当たるなど丸子さんは多忙を極める。
「交通事故にあった場合、ケガだけではなく治療環境にストレスを感じて命を落とすこともある。一命を取り止めても普通の生活に戻ることができなくなってしまう。まだ何年も生きることができたはずが、事故でそうなってしまうのは非常に悲しいこと。周辺を運転するときは気をつけてほしい」と語り、野生動物と人との共生のための注意を呼び掛ける。
ペットとして愛されているイヌやネコなどは治療データが膨大になり、人間と同じレベルの治療が可能になってきているというが、野生の動物は診る機会が少なく、データの蓄積が圧倒的に少ない。
丸子さんは「奈良公園は動物園とは違い、多くの鹿が生息している。ここの鹿の診療データは世界的に貴重なもので、データベースを蓄積していければ」と語り、奈良の鹿を日々、見守っている。
まるこ・りえ
一般財団法人奈良の鹿愛護会獣医師。岩手大学農学部獣医学科卒。大学附属の動物病院などで小動物の臨床に従事し、今年4月から現職。計1200頭以上の奈良公園の鹿のけがや病気を診察している。 一般財団法人奈良の鹿愛護会 住所:奈良県奈良市春日野町160-1
電話:0742-22-2388
URL:http://naradeer.com/