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【私を支える魔法の言葉】
置かれたところで咲きなさい

シンガーソングライターの大垣知哉が「今、会いたい輝く女性」を取材し、人生の支えになった大切な言葉とストーリーを綴る「魔法の言葉」を連載。

奈良県立万葉文化館 館長 稲村 和子さん

(取材日:平成30年8月)

 昭和29(1954)年大阪生まれ。昭和54(1979)年、武庫川女子大学卒業後、奈良県に農業技術吏員として入庁。農林部生活改良普及員、農業専門技術員として農業・農村の地域活性化、地域特産物の育成に25年間取り組む。以後、福祉部、商工労働部で児童福祉、雇用対策等の行政施策に関わる。平成18(2006)年より奈良県立万葉文化館業務部長、奈良県文化課長、奈良県立橿原考古学研究所副所長など、文化行政、博物館経営に大所高所より関わる。平成25(2013)年より、奈良県立万葉文化館館長。(公財)由良大和古代文化研究協会評議員、奈良文化財研究所明日香資料館運営に関する懇談会委員、高取町まち・ひと・しごと創生総合戦略外部検証委員会委員。


置かれたところで咲きなさい=それぞれ人には生まれ持った分がある。生まれた境遇は変えられないけれど、生き方は自分の力で変えていける。



■大学卒業後は改良普及員に
 「2~3年で辞めていくお嬢ちゃん」。私が普及員として奈良県に赴任した当時、職場の皆が思っていた私の印象です。当時は23~25歳が結婚の適齢期。大学を卒業し22歳で就職した私にとって、働くのは2~3年で、就職も花嫁修行の一つだと自分でも思っていたくらいでした―。
 私は大阪港区にある鉄工所の三人きょうだいの末娘として生まれました。2人の兄を見て育った私は男の子のように活発でしたが、厳格な両親から「女の子だから」といつもいさめられていました。それでも負けん気が強い私は短大を進学先に勧める両親の意見を聞かず、四年制大学への進学を決意しました。卒業後は商社や百貨店の商品試験室に勤めたいと思っていましたが、当時の大卒女子には狭き門でした。
 そんな時、大学の研究室に回覧されてきた改良普及員資格試験の案内を見て「取得しても損はない」と受験を決意しました。合格し、卒業間近のこと。幸運にも奈良県から普及員募集の連絡がありました。こうして県庁農林部の改良普及員として働くことになりました。
 改良普及員の仕事は農村、農家における生活や農作業改善の指導でした。当初は大変なことばかりでしたが、徐々に仕事に魅力を感じていきました。何よりも私の心を惹きつけたのは、四季折々の大和路の美しい農村風景、農家の方々の人情、自然に触れる楽しさなど、これまで味わったことのない驚きと発見の毎日でした。

《写真左》改良普及員時代に行われた農業祭《写真右》農業試験場時代夏秋なすの作業性調査の仲間たち


■可能性求め国家試験に挑戦
 仕事には満足していましたが33歳の時、自分の可能性を知りたくて、何か結果を残したくて、当時の男性上司の連中に「ようそんなん受けようと思うわ」と反対される中、普及員を指導する専門技術員の国家試験に挑戦し合格、専門技術員として9年間勤めました。
 平成12(2000)年に突然、全国初の県一農協となったJA奈良県への出向が 命じられました。当初は「よそ者は黙っといて」という視線や空気を感じていました。ところが一生懸命やっているとその姿を 見てくれていた農協の人たちは徐々に 私を受け入れてくれるようになりました。
 次の異動ではまったく畑違いの母子家庭対策、DV、児童手当などの業務を行う福祉部へ。その2年後は緊急雇用ニート対策を行う商工労働部へと異動になりました。いつか元の農業試験場に戻りたいと思っていたのですが、その後も2、3年おきに他の部署に異動…。これは笑い話ですが当時の上司に「次はどこがいい?」と聞かれ「土の匂いがするところ」と答え、「また農に携われる!」と期待したのですが、橿原考古学研究所への赴任を命じられ、万葉文化館勤務も長くなり、今ではすっかり文化の人になりました。

■女性だからこそできた
 私はこれまで赴任した先々で「女性初の…」と言われ続けてきましたが、振り返れば男性社会のど真ん中で仕事をしてきたのではと思います。しかし、私が女性であるからこそ、農村部の女性の苦労を理解でき、母子家庭の若い母 たちのサポートを考えられたのだと思います。
 人生のその時の自分の立場を、嘆くのではなく、逆手にとって面白がり、前向きに取り組んでいたら周りの誰かが応援してくれて、それぞれ の場で何とか花を咲かせることができたと思います。
今いる環境を嘆くことなく、やれることに尽力して欲しい。私も、与えられた環境ポストに見合う人になるために、苦労しましたが学芸員の資格を取得しました。「置かれた場所で咲くために―」

 

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