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奈良の情報を編集、好きになる入り口を用意
感じる余白を残し発信

(取材日:平成29年6月)

 中学、高校の青春時代を奈良で過ごしたシンガーソングライターで俳優の大垣知哉さん(写真左)が、奈良にゆかりのある伝統を継ぐ人や一流のエンターテイナーたちと、奈良への思いを中心に対談します。

編集者・文筆家 倉橋 みどりさん

 さまざまな角度から奈良を紹介していた雑誌「あかい奈良」の編集長を6年務め、現在はフリーの編集者、文筆家として活躍する倉橋みどりさんは、山口市から奈良に移住したからこそ見える視点を大切に奈良の情報を発信する。「奈良は感じるのを待ってくれている土地」と語り、情報を発信するときはあえて余白を残すことを心がけていると話す倉橋さんと大垣知哉さんが対談。編集することや伝えることについて語り合った。


 大垣 「あかい奈良」の編集長を経て、現在はNPO法人を立ち上げて奈良の文化を発信されていますが、編集や伝えることについて、大切にしていることはありますか。
 倉橋 昔、春日若宮おん祭の時に食べる「のっぺい」について、90歳代のおじいさんのところへ取材に行ったことがあるんです。記事を書くために何としても食べ続けてきた根拠を聞き出そうと質問を繰り出したんですが、おじいさんは最後に「色々聞いてくるけど、理由なんているんか。うちではずっと食べ続けてきたんだから、自分も同じようにしているだけや」と言われたんです。その言葉を聞いたときに目から鱗が落ちました。
 奈良の人は科学的な根拠やメリットがあるから物事を続けていくのではなくて、先人が続けてきたことを自分の代で止めるのは申し訳ないという思いがDNAの中に刷り込まれているんです。意味を求めないから無意味にならない、理屈を付けないことで時代を超えられるんですよね。奈良はすごいなと感じました。
 今まで歴史ってひと固まりのものだと思っていたんですけど、奈良にいると一人ずつの足跡が残っていて、歴史って一人一人の人生の集積だということを実感できるようになりました。
 奈良はこっちがその良さに気付くまでのんびり待っててくれるところも好き。「気付いてくれたんやね」と言ってくれている気がするんです。
 大垣 人に自分の感じた事を伝えるのは凄く難しいことだと思うのですが、倉橋さんは、奈良の魅力を伝える時に、何か心がけていることはありますか?。
 倉橋 本来なら100のものを伝えたいときは100のことを伝えるのが親切だと思います。ですが奈良の場合は気付くのを待ってくれている土地なので、80ぐらいにとどめておきたいんです。あとの20は自分で探しに来て、自分で気付いてというスタイルを大切にしたい。
 たとえば東大寺さんについて紹介するときに、修二会が脈々と続いてきた事実を伝え、あとは自分で足を運んでもらいたい思いがあります。実際にその場に立ってみて、一回では気付かない人も多いかもしれない。でも、いつかその人が気付いてくれたらいいと発信者が受信者のことを信じて発信していきたいんです。
 大垣 感じる余地を残したいってことですね。
 倉橋 そうなんです。余地を残したい。余白を残して発信していくのがいいと思います。その余白に少しでも気が付いてくれたときに、その人は奈良の魅力から抜けられないくらい好きになれます。すべての情報を押し付けられて「好きになれ好きになれ」では恋に落ちないでしょ!
 大垣 そうですね。奈良は歴史が完璧にわかってないじゃないですか。そこに良さがある。実際に足を運んでみて、「実はこれはこうなんじゃない?」という歴史を感じたときに、奈良の深みを知れるってことですよね。
 倉橋 余白を残すって言いましたけど、私が思う余白と、大垣さんが思う余白と皆さんが思う余白は、3通りあるならそれでいいと思ってるんです。
 そこも1300年という長く深い歴史がある土地なので許してくれる。発見できる余地がある、余白を自分で埋めてもらうことで、その人らしく奈良に出会ってもらえるんじゃないかな。奈良を発信するときに私ができるのは、きっかけと入り口だけを用意してあげること。あとは実際に来て、そこから先は自分なりの奈良を見つけてほしい。
 奈良はもっとおもしろいよ、その感じ方は色々でいいよということを、これからもお伝えできたらいいなと思っています。


 

くらはし・みどり
 山口県出身。奈良きたまちを拠点にフリー編集者として活躍。著書に『奈良の朝歩き、宵遊び』(淡交社)など。奈良の文化や歴史を編集・発信するNPO法人文化創造アルカ理事長。奈良市入江泰吉旧居の事業コーディネーターもつとめる。俳人協会幹事の俳人。

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