"その一点"を探す楽しさ
指導する立場の今も「毎日絶対バーに立つ」
(取材日:平成28年6月)
中学、高校の青春時代を奈良で過ごしたシンガーソングライターで俳優の大垣知哉さん(写真右)が、奈良にゆかりのある伝統を継ぐ人や一流のエンターテイナーたちと、奈良への思いを中心に対談します。
奈良ホテル バー「ザ・バー」ヘッドバーテンダー 宮﨑 剛志さん
関西の迎賓館として名高い奈良市高畑町の奈良ホテルに勤務し、バーテンダーの世界大会「ディアジオワールドクラス2013」で世界総合第3位、アジアパシフィックチャンピオンに輝いた宮﨑剛志さんと、シンガーソングライターで俳優の大垣知哉さんが対談した。さまざまな酒、音を組み合わせて、納得のいく「一点」を探すことの楽しさや、後進の指導をする立場の今も、カウンターに立ち続けるこだわりを持つ仕事の姿勢について語った。
大垣 出場されたきっかけは何だったんですか。
宮﨑 実は若いころに音楽をやっていまして、バンドを組んで活動(ベース)していました。音楽って「いろいろな音の組み合わせ」だと思うんです。こうやって作ることに対して自分はとてもワクワクするんです。カクテルに興味を持ったのもそうでした。
怖いもの知らずで、独学でのめりこんでいき、実は会社に黙って大会に出場させていただきました。この大会から帰ってきて、会社から「じゃあ総務部を兼務しながら、バーに立て」と言われました。独学でしたので、マティーニやホワイトレディーなど、クラシックのカクテルはほとんどやったことがなくて…。 実はお酒は弱いんですが、営業が終わってから毎晩、一人で練習していました。この時間がとても楽しいんです。誰かに習うことがなかった分、めちゃめちゃ遠回りしてきたと思いますが。
大垣 「組み合わせ」のおもしろさ、すごく共感できます。音楽も何度も何度も狙いの1点を探しているうちに、だんだんと的の中心んに近づくというか、狭くなってくる感じがありますね。はまっていく感じ。
宮﨑 そうなんです。これとこれを組み合わせたり分解していく味のロジックをしていると、突然パチンとはまる。そういう感じです。この「パチン」と合う瞬間、点の瞬間。これがたまらない。でも、これは年に数回かしかないですね。それでもこれがやめられない。
大垣 世界ランカーの味を求めて、全国からたくさんのお客さまが来られるとお聞きしていますが、こういう雰囲気のバーとなると、何だかハードルが高いような気がして。もしかしてバーテンダーの方に失礼なことを聞いてしまいそうな不安があるのですが、どういうオーダーをしたら良いですか。
宮﨑 敷居が高いなんてことはまったくないです。カクテルはドロドロに甘いものから、ピンピンに酸っぱいものまで無数にあります。僕はお客さまと正直に向き合い、いくつかのヒントを会話で頂戴しながら、ご提案するようにしています。
そのためには準備をすることが大切だと思っています。10種類くらいの性格の違うカクテルを頭に入れて、プレゼンができるように。こういう引き出し、チャンネルの多さが大切だと思っています。
大垣 宮﨑さんの今後の目標を教えてください。
宮﨑 今も、毎日絶対にバーに立つんです。やはりこういう年齢になってくると、管理やパソコン仕事が増えてきますが、それは夕方までに終わらせて、とにかく立つ。これをやり続けたいですし、自分はやらなければならないと思っています。
僕はこの奈良ホテルのサラリーマンだからこそできることがあると思うんです。日々刺激を受けて、それを学ぶ機会がある。海外を回らせていただいたり、講演させていただいたりも会社員だからできること。そういう活動に力を入れたいです。
そうして、ここのバーの若い人が自分を踏み越えて、世界ランカーに入ることを期待しています。ここの若い人は本当に世界ランカーになりますよ。
みやざき・つよし 20歳で奈良ホテル入社。さまざまな業務に携わりながら独学でバーテンダー技術を学ぶ。
「ディアジオワールドクラス2013」世界総合第3位、アジアパシフィックチャンピオン。ディアジオワールドクラス 世界有数の総合酒類メーカー、ディアジオ社が主催する、バーテンダーとしての技術やお客さまを楽しませる「おもてなしの心」など〝バーテンダーに必要なすべて〟が問われる世界規模の大会。2016年で8年目を迎える。
「Raising the Bar(バーの価値を高めること)」をコンセプトに、52カ国・約15000人以上のバーテンダーがしのぎを削る。
先に行われる各国大会で代表選手1人が選ばれ、世界大会で最も権威のある国際的栄誉が争われる。【撮影場所】奈良ホテル内バー「ザ・バー」 住所:奈良県奈良市高畑町1096
電話:0742-26-3300
営業時間:18:00〜24:00
URL:http://www.narahotel.co.jp