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無料でカレー食べられるシステム考案 店通じ広がる善意の和

げんきカレー店長 齊藤 樹さん

(取材日:令和2年2月)

 香芝市で英会話の学習塾を営む齊藤樹さん(48)は、平成30(2018)年に出身の橿原市でカレー店をオープンした。客が善意で購入したチケットを店内に張り出し、子どもらがそれを使って無料でカレーを食べることができる「みらいチケット」に取り組んでいる。顔見知りではなくとも、子どもの笑顔のために善意を寄せる大人たちと、それに感謝しカレーをほおばる子どもたち―。店を通じて広がる善意の輪が、みんなを幸せにする。


 斎藤樹さんは、塾の生徒から読まなくなった本や着なくなった服を集め、児童養護施設に寄付する活動を続けてきた。活動の中、目には見えにくいが貧困にあえぐ子どもたちがいるという話を聞くうちに、こども食堂の見学に行くようになり、自分でも何かできないかと考えるように。
 平成30(2018)年5月、生まれ育った地元の橿原市で子ども100円、大人200円のカレーを提供する「げんきカレー」をオープンさせた。同年9月から他の人の善意が無料の一杯になる「みらいチケット」というシステムをスタートさせた。 システムはカレーを食べに来た人が「みらいチケット」を1枚200円で購入し、店内のホワイトボートに貼る。店に訪れた中学3年生までの子どもは、そのチケットを使うと無料でカレーを食べることができる。
 チケットを購入した人は次に訪れた際、自分が張り出したチケットがなくなっていることで「誰かに使ってもらえたんや」という実感が得られる。 チケットを始めたきっかけについて斎藤さんは「60円を握りしめてカレーを食べに来た子がいました。その時に居合わせた常連さんが『俺がその子の分を払ったる』と。この出来事から子どもらに食べさせてあげられる仕組みを作ろうという話になったんです」と振り返る。
 この取り組みは徐々に知られるようになり、斎藤さんは「お釣りをそのままチケットにという人や、多い人では一度に50枚のチケットを購入してくれた人もいた。購入してくれた人の中には、今まで寄付もボランティアもしたことがないという人もいました。購入することで『いいことをした気がする』とうれしそうに話す人もいて、こちらもうれしくなります」と語る。
 お店で提供されるカレーのソースには国産の玉ねぎと鶏肉を使い、コクを出すための隠し味は味噌。1杯の量も米が250㌘、ソースが250㌘の計500㌘と決して少なくなく、光熱費や店の賃貸料などを含めると赤字になるという。
 「お金の使い道は人それぞれで価値観も違います。例えば毎月10万円を賭け事に使う人もいれば、芸能人のグッズやコンサートに使う人も。自分はここで子どもたちから『おっちゃん、ありがとう』という言ってもらえることに使っているんです」と斎藤さんは笑顔を見せる。 現在、斎藤さんのもとには全国各地から「お店でチケットを使ったシステムを取り入れたい」「チケットを購入したい」という内容の問い合わせが届き、他府県の地方議員が行政視察に訪れることもある。
 地元のボランティアと共に、子どもらの宿題サポートなどの学習支援も行い、年齢問わず誰もが気軽に集まる場所になっている「げんきカレー」では、子どもがさまざまな大人と関わることで、自然と敬語を話すようになった例もあり、地域で子どもを支え、育てる空気に包まれている。
 中でも斎藤さんが特に印象深かったのは、「よくチケットを利用しに来ていた子が中学校を卒業して働き出しました。その子が『今まで一番、俺らが使ってきたから』と初任給で1000円分のチケットを買っていってくれたことです」と振り返る。 互いに顔見知りではなくとも、子どもらのためにとチケットの購入を通じて広がる「善意の輪」が、全国に広まってほしいと斎藤さんは願う。


さいとう・しげる
 昭和46(1971)年生まれ。橿原市出身。本業で学習塾を経営。平成30(2018)年5月にカレー店をオープンし、9月から無料でカレーを食べることができる「みらいチケット」というシステムをスタート。カレー業界発展に寄与した商品や店舗を発表し表彰する「カレー・オブ・ザ・イヤー2020」で社会貢献部門に選ばれた。チケットは電子マネーで購入し、ホワイトボードに貼ってもらうこともできる。詳しくは☎070-1380-7476、もしくは公式ホームページ(http://sp.raqmo.com/gennki200/)へ。
 URL:http://sp.raqmo.com/gennki200/

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